心と身体に「凪」をもたらす人

「誰もが特別な存在であること」を気づかせてくれる人々をリボンのように結んでいくコラムです。今回お話を伺うのは新しい心療内科のあり方を日本で提唱するドクター、田中貫平さん。イギリスと日本で医師免許を取得し、日本の病院で心療内科医師として勤務したのち独立。現在は「自分の心と身体に向かい合うことで、自分の個性に気づくこと」をテーマのひとつにマインドフルネスや、マインドフルネス瞑想、フォーカシングを通して人々の心身の健康のサポートに取り組んでいます。そんな新時代のドクターに訊く、健康とファッションの関係について。
—田中さんがドクターを目指そうと思ったきっかけを教えてください。
父方の家系に医者が多く、漠然と小さな頃からその道を意識していました。私の出身は兵庫県の宝塚なのですが、医師で漫画家の手塚治虫先生の出生地ということもあり家にも学校の図書館に著書がたくさんありました。その中にあった『ブラックジャック』が医師を目指す大きなきっかけになったと思います。また4,5歳の頃に自宅にあった皮膚科の難しそうな本を見て、「あ、医療の勉強をしたいな」と思ったことを今でもぼんやりと記憶しています。
先にイギリスで医師免許を取ったのは、兄が留学していて強い憧れを持っていたこと、また母が外国で生まれ、親戚も外国籍だったりするような環境だったので、海外で学ぶことは自分にとっては自然な選択でした。
—そこから心療内科のドクターを選択するのはどういう流れだったのでしょうか。
父が精神科の医師であったことが大きいですね。加えて、人の話を聞くことが苦ではなかったこと、さらに医者として、重い病になる前に病気を予防したい、社会が抱える問題に何かアプローチしたい、という側面から心理学にも興味がありました。ですからこちらも自然な流れだったと思います。
私が今取締役を務めるicam(アイカム)では自由診療という形で、病院でできる治療の枠組みの中だけでは実践できない、マインドフルネスにまつわるさまざまなアプローチをとっています。そしてそれをイギリスではなく日本でやろうと選択したのは、まずは私自身が母国だと感じる日本で、今を生きる大切さや幸せを味わいたいという気持ちが大きかったですね。そして帰国して10年経った今では、日本が持つ良い価値観を海外に広めていきたい方たちを心身や健康の側面からサポートしたい、そんな思いが非常に強くなってきました。

穏やかな口調と全身から醸す優しい雰囲気に、つい、あれもこれも。と話してしまいたくなる田中さん。普段の診察は、こんなシンプルなスタイルがメイン。フィットにこだわったオーダースーツにtakes.のTシャツ。機能的で着心地の良いものを、というこだわりから生まれたスタイル。
どんなに科学が発展しても、人間の身体は自然の一部
—ファッションの話へと移りますが、両国の医療現場においてユニフォームなど装いの違いはありますか?
イギリスの病院は白衣を着る習慣がなかったんです。ですから診察では、Yシャツにスラックスというドクターが多かったですね。日本に戻ってからは、私も白衣を着用することもありましたが、現在の勤務形態になってからは、またYシャツ、スラックス、そこにジャケットというスタイルが多いです。クライアントさんに緊張感を与えないためにも、ある程度カジュアルな方が話しやすいかと。ただカジュアルであっても派手すぎる色は着ない。シンプルな色やデザインにすることも大切かなと思っています。
—プライベートのファッションについて聞かせてください。
オフはもっぱらカジュアルですね。こだわっていることは、自分の身体にフィットするということ、デザインがシンプルであること、そして機能性ですね。ジャケットやパンツはサイズを測ってもらってオーダーできるブランドのものを愛用しています。Tシャツやシャツは消耗品だからこそ、SDGs的な視点からのモノづくりも最近気になるようになりました。それらの生産背景や使い終わった後にどうなるのか。またできるだけ素材はオーガニックのものだったらいいなあと。そしてオン同様に、白、グレー、ブルーといった単色が好きです。

takesRIBBONを着用してもらった感想は「シルエットがユニークですね。モックネックは自分ではなかなか選ばないのですが、今日着させてもらって、意外にしっくりきたので驚きました。ジャケットスタイルにもマッチするのがいいですね。またピンクに近いヌード色というのが、普通のピンクとは違い、何かすごく優しい感じがしたので、相手の方に安心感をもたらしてくれるのかなと思いました。個人的にも、白、ブルー、グレー以外でも取り入れてみたいです 」
takes.の魅力は安定性と凪のような安心感
–takes.のTシャツもご愛用いただいているということですが、田中さんが感じるその魅力を教えてください。
ワードローブに何枚か取り入れ始めて、今、半年くらいになりますね。家族の紹介で着はじめたのですが、試してみたら、着心地が良かったんです。冬でも肌がヒヤっとせず暖かいという機能性が気に入りました。また自然素材というところもいいですね。どんなに科学が発達しても、人間の身体ってやっぱり自然の一部ですから、自然素材の方が基本的には身体には良いわけです。
あと製品として安定性があるところ、でしょうか。同じ素材、同じデザイン、同じカラーのものがいつでも買い足せる安心感。職業上、自分は常に一定で安定した状態でいたいんです。ですから安定性があるものを自分の定番にしておくと、安心感に繋がる。そういう意味でも「凪」を感じるアイテムですね。takes.は。
—ファッションが人にもたらす効用ってどんなものだと思いますか?
昔の人って着るものが決められていましたよね。かつては階級や立場や職業を表すためのものであり、そこには個人が選ぶ自由がなかった。ですが、今は自己表現のひとつになっている。健康において大切なことって、自由に自分を表現できることだと思うんです。視覚的なもの、触覚的なものなど複雑な側面など複雑に絡み合っているので一言で言うのは難しいのですが、奥深いものだと思いますね。

—最後に。今、とても不安定な時代を迎えていると思いますが、日常生活で心の安寧や健康を保つためのリラックス方法などあれば教えてください。
リラックスできる場所を見つけて、自分が好きなだな、と思うことを丁寧にやることが大切です。たとえば自分の好きなコーヒー屋さんに行って、コーヒーを丁寧に飲む。とか、公園でベンチ座ってぼーっと葉っぱを眺めるとか。ポイントはその時間を自分の予定表にしっかりと書いて入れておくことです。そうでないと、つい後回しになってしまい実行できませんから。私自身も最近そうするようになりました。恥ずかしながら毎回うまくできている訳でもないのですが、うまくいかなければ先に時間がある時に改めて入れ直して忘れないようにしています。 そんな小さな時間を自分に約束しておいてはどうでしょうか。
あとは、電気を消した真っ暗なお風呂場で、ゆっくり湯船に浸かりながら、焚き火の動画を見るのもいいかもしれません。余計な視覚情報が遮断されて、触覚と聴覚に感覚が集中するのでリラクゼーション効果が高まります。焚き火の音って、古代に私たちが森や洞窟で団欒しながら食事したり身を寄せ合っていたような原始的な感覚が蘇るんでしょうね。きっと。そんな凪の空間を作ると、自分の中の揺れや動きがゆっくりと止まってくる。コーヒーでも、公園でも、癒しの音声や動画でもいい。何に身を委ねていると自分の揺れが止まっていくのか、それを知っておくことが大事だと思います。もし自分一人では難しい時には、マッサージやカウンセリングなど周囲の力を早めに借りるようにしてくださいね。
Profile
田中 貫平 Kampei Tanaka
icam co. ltd 取締役 /Mentor/医師 /Gallup認定ストレングスコーチ /インド中央政府公認ヨガインストラクター
1989年生まれ。シンガポールの高校を卒業後、イギリスにて医療を学び、イギリス及び日本にて医師免許を取得。九州大学病院心療科を経て、株式会社 icam(アイカム)を設立。マインドフルネスやマインドフルネス瞑想、フォーカシングなどの個別セッションを通じて、クライアント(i)が人とのコミュニケーション、所属するコミュニティ、ご本人の本質などに触れることによって、本来の自分の状態になること (I am) を目指している。
PHOTO:Nam. grafik. EDIT&TEXT: SHINZONE